法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」とは?その概要とメリットを徹底解説!
皆さんは「遺言書」について考えたことはありますか?終活ブームと言われる現代でも、2018年の調査では55歳以上の方で自筆証書遺言書を作成した人はわずか3.7%、公正証書遺言書は3.1%に過ぎません。
「大した財産はないから不要」「法定相続分で分ければいい」と思われがちですが、実は遺産分割調停の約3割は遺産額が1000万円以下のケースで、相続人同士が有利な主張をして争いになることも少なくありません。遺言書がない場合、遺産分割協議がまとまらなければ不動産や預貯金の相続手続きが進められないという問題も生じます。
そんな中、ご自身の思いを法的に伝える大切な文書である「遺言書」を、より安全かつ確実に残すための新しい制度が注目を集めています。それが「自筆証書遺言書保管制度」です。
●自筆証書遺言書保管制度とは?
これまでの自筆証書遺言は、自分で手軽に作成できる反面、自宅で保管されることが多いため、紛失・焼失・改ざん・隠匿の恐れがある、相続人に発見されない可能性がある、そして家庭裁判所での「検認手続き」が必要になる、といったデメリットがありました。
これらの自筆証書遺言の課題を解決するため、2020年7月10日から全国の法務局で始まったのが「自筆証書遺言書保管制度」です。この制度は、ご自身で作成した自筆証書遺言書を、法務局が原本とその画像データの両方で保管してくれるというものです。
●制度の概要
○利用できる人
遺言者ご本人が、必ず法務局に出向いて申請する必要があります(代理人による申請は認められていません)。
○申請可能な法務局
遺言者の住所地、本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄するいずれかの法務局の遺言書保管所を選択できます。
○保管費用
手数料として3,900円の収入印紙が必要です。
○遺言書の作成
・用紙はA4サイズで片面のみを使用し、所定の余白(上5ミリ、下10ミリ、左20ミリ、右5ミリ)を確保します。
・ボールペンなど消えない筆記具を使用します。
・遺言書の本文(全文、日付、氏名)は必ず自書(手書き)し、押印が必要です。
・財産目録については自書でなくてもよく、パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーなどを添付する方法でも作成できます。ただし、その場合は目録の全てのページに署名押印が必要です。
・書き間違えた場合の訂正方法も法律で定められていますので、注意が必要です。
●自筆証書遺言書保管制度の5つの大きなメリット
この制度を利用することで、従来の自筆証書遺言が抱えていた多くの不安が解消されます。
1. 紛失や改ざんの心配がない
法務局で遺言書の原本と画像データが保管されるため、紛失や盗難、偽造や改ざん、隠匿の恐れがなくなります。これにより、遺言者の意思が確実に守られます。
2. 形式の不備による無効を防げる
保管手続きの際に、法務局の職員が民法が定める自筆証書遺言の形式に適合するかどうかを外形的に確認してくれます。これにより、形式の不備によって遺言書が無効になってしまうことを防ぐことができます。ただし、遺言書の内容が適切であるか、あるいは法的に有効であるかまでは審査してくれませんので注意が必要です。
3. 家庭裁判所での「検認手続き」が不要になる
公正証書遺言と同様に、この制度を利用して保管された遺言書は、遺言者の死後、家庭裁判所での「検認手続き」が不要になります。これにより、速やかに相続手続きを進めることができ、相続人の負担を軽減できます。
4. 確実に発見され、相続人に伝わる
遺言者が亡くなった際、事前に指定した方へ遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらえます(死亡時通知)。また、相続人等のうちのどなたか一人に遺言書情報証明書が初めて交付された際には、他の全ての相続人等にも法務局が保管の通知(関係遺言書保管通知)を送付する仕組みがあります。これにより、「遺言書が発見されない」という事態を防ぐことができます。
5. 相続人の手続きがスムーズに
相続人等は、全国どこの法務局でも遺言書の内容を証明する「遺言書情報証明書」の交付を請求できます。この証明書を使って、相続登記や銀行での預貯金の手続きなど、各種相続手続きをスムーズに行うことができます。
●注意すべき点
○遺言者本人の来庁が必要
申請には必ず遺言者ご本人が法務局に出向く必要があります。代理人による申請はできません。また、手続きは事前予約制です。
○内容の審査は行われない
法務局は遺言書の形式的な不備は確認しますが、内容について法律的な有効性や実現可能性を審査するわけではありません。複雑な内容や特別な希望がある場合は、内容に関する不安を解消するためにも、あらかじめ行政書士などの専門家への相談を検討することをおすすめします。
●まとめ
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の手軽さというメリットはそのままに、従来のデメリットを大幅に解消できる画期的な制度です。
ご自身の思いを確実に実現し、残されたご家族の間のトラブルを防ぐためにも、遺言書の作成、そしてこの保管制度の利用をぜひご検討ください。内容の検討や必要書類の収集、手続きのサポートなど、行政書士などの専門家が支援することも可能です。
大切な人への「最後のメッセージ」を、法務局の制度を活用してしっかりと残しませんか?