遺言書作成、自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選びますか?
ご自身の財産を大切な方に確実に引き継ぎ、残されたご家族が円満に相続手続きを進められるよう、遺言書の作成を考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。遺言書は、ご自身の「最後のメッセージ」として、財産の分配や意思を法的に伝えるための重要な文書です。
ここでは、遺言書として一般的に利用される「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」について、それぞれのメリット・デメリットを比較し、より確実な方法をご提案します。
- 自筆証書遺言の特徴とメリット・デメリット
自筆証書遺言は、ご自身で全文を手書きして作成する遺言書です。
●メリット:
•手軽に作成できる: 自分だけで作成できるため、時間や場所に縛られず、手軽に作成できます。
•費用がほとんどかからない: 作成自体にはほとんど費用がかかりません。
•内容を秘密にできる: 遺言書の存在や内容を、ご自身以外に秘密にすることができます。
●デメリット:
•書き方に不備が生じる危険性: 全文を自書する必要があるため、法律で定められた形式要件を満たさない場合、遺言書自体が無効になるリスクがあります。財産目録はパソコンでの作成や資料の添付も可能ですが、その場合も全ページへの署名押印が必要です。ただし、行政書士に
•本人の意思で作成したことの立証が困難: 後々、本人の意思で作成されたものであるかどうかが争いになる可能性があります。
•紛失や改ざん、隠匿、焼失の危険性: ご自身で保管するため、これらのリスクが伴います。
•家庭裁判所の「検認」が必要: 遺言者の死亡後、家庭裁判所で検認手続きを行う必要があり、遺言の執行までに時間がかかります。勝手に開封すると過料が科される場合があります。
●自筆証書遺言書保管制度について
これらの自筆証書遺言のデメリットの一部を補うため、2020年7月10日から「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしています。この制度では、ご自身で作成した遺言書とその画像データを法務局で保管してもらうことができます。
○この制度を利用するメリット:
•紛失や盗難、偽造や改ざんの防止: 法務局が原本と画像データを保管するため、安全性が高まります。
•形式要件のチェック: 保管の申請時に法務局職員が形式要件を確認するため、形式不備による無効のリスクが低減されます。ただし、遺言書の有効性を保証するものではなく、内容の審査は行われません。
•家庭裁判所の「検認」が不要: この制度を利用すれば、検認手続きが不要になり、相続手続きをスムーズに進められます。
•相続人への通知: 遺言者の死亡後、あらかじめ指定された方へ遺言書が法務局に保管されている旨が通知されます。
○注意点:
•本制度の利用には、遺言者本人が法務局に出向いて申請する必要があります(代理人は認められません)。
•保管費用として1通あたり3,900円がかかります。
•この制度を利用した場合、遺言の内容を実現するために相続人は、法定相続人全員の戸籍の収集等、煩雑な手続きを経て「遺言書情報証明書」を入手する必要があります。例えば、子どものいない方が、配偶者のみに全てを相続させたいと願い、遺言を書いても、結果的に兄弟姉妹(既にお亡くなりになっている場合はその子ども)に連絡をとって、その戸籍が必要です。
- 公正証書遺言の特徴とメリット・デメリット
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が、ご本人と2名以上の証人の立ち会いのもとで作成する遺言書です。
●メリット:
•高い信頼性と法的確実性: 公証人は法律の専門家であり、正確な法律知識と豊富な実務経験を持っているため、形式不備で無効になるおそれが極めて小さく、内容が遺言者の真意に基づくものであることの証明力が非常に高いです。複雑な内容でも法的にきちんと整理されます。
•自書が不要: 病気や体の不調などでご自身で手書きが困難な場合でも作成可能です。
•公証人の出張が可能: 遺言者が公証役場に出向けない場合、公証人がご自宅や病院などに出張して作成することもできます。
•家庭裁判所の「検認」が不要: 検認手続きを経る必要がないため、速やかに遺言の内容を実現できます。
•原本の安全な保管: 遺言書の原本は必ず公証役場に保管されるため、紛失、破棄、隠匿、改ざんのおそれがありません。
•遺言情報管理システム: 平成元年以降に作成された公正証書遺言は、全国の公証役場で遺言の有無を照会できます。
●デメリット:
•費用がかかる: 自筆証書遺言に比較して、公証人に支払う手数料がかかります。費用は財産の価額によって異なりますが、概ね5万~10万円程度とされています。
•証人2名が必要: 作成時に2名以上の証人の立ち会いが必要となるため、遺言内容を秘密にすることはできません。証人はご自身で用意するか、公証役場や士業事務所に紹介を依頼できます。
•作成に手間と時間がかかる: 事前に公証人との打ち合わせが必要で、案文の作成と修正に時間がかかります(1ヶ月程度)。
- 公正証書遺言をおすすめする理由
ここまで見てきたように、自筆証書遺言は手軽さや費用面で優位ですが、法的効力や安全性の面でリスクを伴います。ただし
①自筆証書遺言書保管制度を利用することで一部のデメリットは解消されます。その場合においても、遺言によりその財産を相続する人は、結局法定相続人全員の戸籍の収集など、煩雑な、場合によってはストレスの溜まる作業を行う必要があります。
②遺言書の内容の適切さについてはご自身で判断する必要がありますが、弊所にような行政書士を始め、専門家に依頼する事で、内容に不備があると後に実現できないリスクは解消されます。 一方、公正証書遺言は、公証人がご自身の真意を正確に文書化し、法的にも安全かつ確実に遺言書を作成してくれるため、法的効力や信頼性が非常に高いのが最大の強みです。
特に、以下のような状況に当てはまる方は、公正証書遺言の作成を強くおすすめします:
•特定の方に財産を遺したい、または遺したくない方
•相続人が多く、相続手続きを円滑に進めたい方
•事業をされている方
•お子さんがおらず、配偶者の方に全財産を相続させたいご夫婦(親や兄弟姉妹が相続人に入り、遺産分割協議が複雑になるのを避けたい場合)
•前婚のお子さんがいる、または行方不明の相続人がいるケース
•相続人同士の仲が悪く、トラブルが予想される場合
•主な財産が自宅不動産のみの場合(自宅に住む相続人が、他の相続人から売却を迫られる事態を避けたい場合)
•体力的な問題で手書きが困難な方
•遺言書の形式や内容に不安がある方 公正証書遺言は、費用や手間がかかるというデメリットがあるものの、作成された遺言書が無効になるリスクを極めて低く抑え、遺言内容が確実に実現されるという点で、何よりも「安心」を最大化できる方法です。残されたご家族間の不要なトラブルを防ぎ、ご自身の願いを確実に未来へ繋ぐためにも、公正証書遺言の作成をぜひご検討ください。
遺言書作成にあたり、どの種類の遺言書が良いか、どのような内容にするべきかなど、ご不明な点があれば、公証人や行政書士などの専門家にご相談いただくことをおすすめします。弊所をはじめ行政書士は、遺言書の内容検討から必要書類の収集、公証人との仲介まで、きめ細やかなサポートを提供できます。