永代供養墓と約款

 永代供養墓を新たに整備された御寺院などでは、必ずお申込みの方と取り交わす約款を作成される事と思います。従来の家墓の場合でしたら、過去に本山から示された約款を雛形として整備された御寺院も多いと思われますが、永代供養墓の場合はそのような本山からの働きかけも見られないのではないでしょうか? 現にネットで検索して見つかる各御寺院の約款も千差万別、皆さん大変ご苦労なさって整備されている様子がお見受けされます。
 今日は、約款作成の際に注意すべき点を示す一例として、ある裁判の例をご紹介したいと思います。

1)あるお寺が、信徒さんと契約を結んで、経営する納骨堂でお骨を預かった。
2)契約には、「納骨された舎利(お骨)は如何なる場合も一切返還しない 」との規定があった。
3)契約に従い、お寺は納骨堂内の専用ロッカーで、お骨を預かっていた。
4)後年、この信徒さんはお寺を離れる事となり、それに伴いお骨を預ける契約も終了する事となった。
5)信徒さんはお骨の返還を求めたが、上記「返還しない」条項を根拠に、お寺は応じなかった。
6)信徒さんはお寺にお骨の返還を求めて調停を申し立てたが、その調停の中で、お寺が信徒さんの転寺の申出を受けて当該お骨を納骨堂内の合祀室に移し、他のお骨と混ざった状態としたために、既に返還ができなくなっている事が明らかとなった。
7)信徒さんがお寺を訴え、判決では、お骨の返還ができなくしたことが、お寺の債務不履行及び不法行為に該当するとされた。

 敢えてどの裁判であるのかを詳らかには致しませんが、一次資料にあたって詳しく調べたい方は、ご自分で検索してみて下さい。
司法の判断でポイントとなったのは、以下の点です。

 ・契約の中には、信徒が転寺して納骨堂を使用する資格を喪失した場合における、遺骨の取り扱いに関する規定を設けていないから、お寺は「返還しない」規定だけを根拠にして、合祀することは許されない。
 ・信徒からから遺骨の返還を求められたお寺は、速やかに遺骨を返還しなければならならず、それまでの間は、本件各遺骨を善良なる管理者の注意をもって保管していなければならなかった(にも拘わらず、返還不能な状態にしてしまった)。

 上記判例は、定期的に冥加料を頂いて、お骨を個別安置していた納骨堂の例であって、永代供養墓ではありません。しかし、永代供養墓の契約の中にも、このような「一切返還しない」条項が設けられているものが散見されます。このような条項は、その文言のみならず、設けた背景、事情にまで立ち入ってその意味が解釈されるべきものとされ、ご紹介した判決のように、契約が終了した場合にまでは、適用されない可能性があります。半面、合祀後には返還できない点は、明確に謳っておく必要があると思われます。

 このように、永代供養墓に代表されるお骨を預かるに際しての約款の作成には専門的な知識が必要で、不用意な条項を設ける事で大きな問題が生じる危険性があります。当山では、各御寺院の運営形態に適合した約款の作成をお手伝い致します。どうぞご相談下さいませ。
 尚、ご紹介した判例は地方裁判所のものです。「司法の終局的な判断」として扱われる判例は通常、最高裁判所のものですので、当該事例についても仮に最高裁まで争われていた場合に於いて、地裁同様の判断が下されたかどうかはわかりません。

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