宗教法人の役員と欠格条項

 令和元年9月14日に宗教法人法の一部改正が施行されました。この法改正では、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等を資格、職種、業務等から一律に排除する条項がある規定等を設けている各制度について、心身の故障の状況を個別的・実質的に審査し、制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定へと適正化したものです。

 これに伴い、役員の欠格事由について定めた宗教法人法第22条において、成年被後見人及び被保佐人を一律に役員となることができないと規定していましたが、これを改正し、役員の職務を適切に行うだけの認知、判断及び意思疎通ができない者は役員となることができないこととしました。

 従って上記改正の施工後においては、心身の故障がある者について、宗教法人の責任役員等としての適格性、すなわち職務を行うに当たって必要となる認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができるか否かを、各宗教法人が個別的、実質的に判断することとなります。

 成年被後見人等の人権が尊重される事は素晴らしい事です。これまでは、例えばお寺の住職の地位を失う事がないよう、認知症が進行していても、成年被後見人、被保佐人の申し立てをしない・させないように本人や家族が無理をする虞もあったかに思われます。成年後見制度は、そもそもにおいて本人を保護するための制度です。この改正により、その保護の枠内に入っていても、お寺の役員に留まり仕事ができるのであれば、本人の社会貢献としても価値ある事です。
 しかしながら、裏返して考えると、たとえ成年被後見人、被保佐人でなくとも、役員の職務を適切に行うだけの認知、判断及び意思疎通ができなくなった場合は、役員を辞さねばならず、その判断を法人自らがしなければならないのです。役員として、予算編成、決算承認、財産処分、借入及び保証、事業管理運営、規則変更、合併及び解散並びに残余財産処分等についての議決参加などが適切にできているか、きちんと見極める必要があります。例えば、認知に問題が出てきたと思われるご住職に向かって、責任役員である総代さんは、「宗教法人法22条の欠格事由にあたるから退任願いたい」と言えるでしょうか? そもそもに、責任役員会で「住職は、宗教法人法22条の欠格事由にあたるので解任」の動議が出て可決された場合、その議決は果たして有効なのでしょうか? このような紛争を生じさせぬよう、各宗教法人は自らの組織をマネジメントできるでしょうか?

 紛争に発展する前に、即ち、役員の認知に問題が生ずる前に、良く法人の中で将来に対する備えをしておく事が望まれます。

【ご参考】宗教法人法第22条
 [旧] 次の各号のいずれかに該当する者は、代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員又は仮責任役員となることができない。
一 (略)
二 成年被後見人又は被保佐人

 [新] 次の各号のいずれかに該当する者は、代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員又は仮責任役員となることができない。
一 (略)
二 心身の故障によりその職務を行うに当たつて必要となる認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者

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