寺院墓地とお寺の典礼権

 先日、ある檀家様から電話があり急遽お会いする事となりました。お話を伺うと、内容はご葬儀の事前相談でしたが、次の様な経緯によるものでした。

 ご親族の葬儀について、最寄りの葬儀社に事前相談に行った。いくつかプランを紹介されたが、最も安価なプランである「直葬」のプランにしたいと言ったところ、「菩提寺はおありですか? おありでしたら、このプランを選ばれる場合は、予めお寺さんとお話をなさってからにして下さい」と言われたので、相談しに来た。

 …という次第です。
 ご葬儀に関係する方であれば、直ぐに事情はおわかりの通り、菩提寺をお持ちの方が、菩提寺がお勤めする葬儀をしなかった場合、住職が境内墓地への納骨を認めない、などのトラブルに発展する可能性があります。そこで、ごく一部の配慮のない葬儀社を除いて、このような菩提寺を持つ方からの「直葬」、つまり宗教家の介在しない葬儀の申し込みを受けると、まず菩提寺の了解を事前にとるように話をします。
 今回のお話は、経済的な理由による「直葬」希望でしたが、大切な檀家様にそのような選択を検討させてしまった自らの至らなさに大いに恥じ入る事となりました。後日、実際にご葬儀になった際は、勿論、お寺に対して経済的な心配をして頂く事なく、通夜・葬儀・告別式をお勤めさせて頂いたのは言うまでもありません。

 さて、今日の話の本題は、上に書いた「菩提寺をお持ちの方が、菩提寺がお勤めする葬儀をしなかった場合、境内墓地への納骨を認めない」についてです。これは妥当なのでしょうか?
 墓地埋葬法第13条には、こうあります。

「墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない。」

 反対解釈で、お寺は「正当な理由」があれば納骨を拒む事ができる事になります。では正当な理由とは具体的にどのような事を指すのでしょうか? 「正当な理由」を巡っていくつか裁判が過去に行われ、その判例として、凡そ以下のような場合が「正当な場合」として認められるに至っています。
・他宗派の者が他宗派の典礼を行った上で埋蔵しようとした場合。
・他宗派の者が、他宗派の典礼は行わないものの、墓地を管理するお寺の宗派の典礼を拒否した上で埋蔵しようとした場合。
他宗派の者の納骨に際し、寺院墓地の管理者は、自派の典礼を行う権利があるとされています。

 一方、今回の場合のような、他宗派ではない、自分のお寺の檀家さんが無典礼で納骨しようとした場合についてはどうでしょうか? この場合は、明確な判例は確立していません。上記のような他宗派の者の埋蔵の場合の様に、無典礼での納骨がお寺の宗教的信条を大きく損うものとは判断されない可能性があるためです。

 では、お寺は、寺院墓地について自らの典礼を行う事を埋蔵の条件としたいのであれば、どうすれば良いのでしょうか? 墓地の使用規則において、典礼権を明確に謳っておく必要があります。典礼権の主張については、多くの寺院の規則で既に謳われた雛形が本山から配布され使われているように思いますが、ご心配な御寺院は、自坊の規則をご確認下さい。勿論、檀家さんがその規則に合意して下さっている事が必要です。一方的な規則の新設・変更を既に墓地をお持ちの檀家さんに適用する事はできませんので、ご注意下さい。また、これから墓地を使用される方(新た契約される方)に対して、典礼権を主張する規則を示して、従わない意思を示した方との契約を拒む事は問題ありません。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です