【重要】法改正で変わる「寄附勧誘」のルール – お寺が今すぐ見直すべきポイント

 近年、「霊感商法」と呼ばれる悪質な商法による被害が深刻化し、社会問題として大きく取り上げられています。これを受け、日本の法律が改正され、宗教法人を含む様々な団体による寄附の勧誘に関する新たなルールが導入されました。
 今回は、この法改正が皆様のお寺の運営にどのような影響を与えるのか、そして今後、具体的にどのような点に注意すべきかを詳しく解説します。


 1.「霊感商法」とは何か? なぜ法改正が必要だったのか?

  まず、「霊感商法」とは、霊的な能力があると偽り、人々の不安や心の隙につけ込み、高額な商品やサービス、あるいは寄附をさせる悪質な手口を指します。
具体的な手口の例として、以下のような事例が報告されています。

 ・開運ブレスレットを買った後、先祖供養をしないと親や子どもに災いが降りかかる」と脅され、洗脳されたように50万円、さらには300万円もの高額な祈祷サービスを要求されたケース。
 ・「あなたの邪気が強すぎるため、偉いお坊さんに祈祷してもらう必要がある」
 ・「おはらいをすれば大金が手に入る」
 ・「霊的な浄化が必要」などと不安を煽り、高額な入会金や商品購入を促す。

 → このような手口によって、多くの人々が多額の金銭を失い、生活が困窮する深刻な被害に遭っています。消費者庁のデータによると、「霊感商法」に関する消費生活相談は例年約1,200~1,500件程度で推移しており、契約金額の平均も100万円を超えるケースが見られます。
   これらの深刻な被害に対応するため、「消費者契約法」が改正され、さらに「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(通称:不当寄附勧誘防止法)が新たに制定されました。これらの法律は2022年12月10日に成立し、一部を除き2023年1月5日から順次施行されています。


  1. 消費者契約法の改正点がもたらすお寺への影響

今回の消費者契約法の改正は、特に「霊感商法」の被害救済を強化するものです。
 ・「霊感等による知見を用いた告知」の取消対象が拡大
    これまでは主に消費者本人の不利益に関する不安を煽るケースが対象でしたが、改正により、「消費者またはその親族の生命、身体、財産等の現在生じている、または将来生じ得る重大な不利益」を回避できないと不安を煽る勧誘も取り消しの対象となりました。
    また、消費者が既に抱いている不安につけ込んで契約を勧誘し、困惑させた場合も対象となります。
    お寺が先祖供養、祈祷、お守りといったサービスや商品を提供する際、信者やその家族の健康問題、人間関係の悩み、金銭的な不安といった「霊的な不安」に触れる言動が、契約取消の対象となり得る範囲が大きく広がったため、特に注意が必要です。
 →例:「先祖供養しないと、その病気は治らないですよ」、「この壺を買えば離婚を避けられますよ」といった勧誘は、困惑させた場合、契約取り消しの対象となり得ます。
 ・取消権の行使期間の伸長
    霊感等による知見を用いた勧誘に対する契約取消権の行使期間が、追認できる時から「1年間」から「3年間」に、契約締結時から「5年間」から「10年間」に延長されました。
    これは、過去の契約であっても、より長い期間にわたって返金請求などの対応を求められる可能性が高まることを意味します。


  1. 新たに制定された「不当寄附勧誘防止法」の主要ポイント

この新法は、宗教法人を含むあらゆる「法人等」による寄附の勧誘に適用されます。

(1) 寄附勧誘における「配慮義務」(必ず守るべき配慮)
  この法律は、寄附の勧誘を行う法人等に対し、以下の点に十分に配慮する義務を課しています。
 ・個人の自由な意思を抑圧せず、適切な判断が困難な状態に陥らせないこと。
 ・寄附によって、個人またはその配偶者・親族の生活維持を困難にさせないこと。
  これは、信者やその家族の生活を困窮させるような、過度な寄附の要求を避ける義務があることを意味します。
 ・寄附の勧誘を行う法人等を明確にし、寄附される財産の使途について誤解させないこと。

(2) 寄附勧誘における「禁止行為」(絶対に行ってはならない行為)
  以下の行為で寄附者を困惑させてはなりません。
 ・不退去(居座り)、退去妨害。
 ・勧誘目的を告げずに、退去が困難な場所に同行させる。
 ・威圧的な言動で相談の連絡を妨害する。
 ・恋愛感情につけ込み、関係の破綻を告げる。
 ・霊感等による知見を用いて寄附者を困惑させる告知。
  →例:「ご先祖様のご加護を得るには、この高額な寄附が不可欠です」「お布施が足りないと、ご家族に不幸が訪れるでしょう」といった、不安を不当に煽る言動は明確に禁止されます。
 ・「借入れ」や「生活に不可欠な資産」(自宅や事業用資産など)を処分させて寄附のための資金を調達することを要求する行為も禁止。
  →例:「借金をしてでもお布施を」「家を売ってでも寄附を」といった勧誘は、重大な違反となります。

(3) 救済措置と罰則、そして運用の配慮
 ・寄附の意思表示の取消し: 消費者契約に該当しない寄附であっても、不当な勧誘により困惑して行われた寄附は取り消すことができます。この取消権の行使期間も、霊感等による知見を用いた告知の場合、意思表示から10年間に延長されています。
 ・家族への救済: 高額な寄附で生活が困窮した信者の家族も、扶養義務を理由に、本人の取消権などを行使して寄附された財産の返還を請求できるようになりました。
 ・行政措置と罰則: これらの規制に違反した場合、内閣総理大臣による報告徴収、勧告、さらに命令といった行政措置の対象となります。命令に違反した場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
 ・運用の配慮: この法律は、宗教法人の活動が憲法上の信教の自由に関連することを踏まえ、その運用において「学問の自由、信教の自由等に十分に配慮される」悪質な寄附勧誘を容認するものではなく、法が禁止する行為(例:不安を煽る告知、借金・資産処分を要求する寄附勧誘)は明確に規制されることに留意が必要です。

 さて、明日は、お寺が今後講じるべき具体的な注意点についてご説明いたします。

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