宗教法人の仮代表役員と仮責任役員

 もしお寺の代表役員たるご住職が寺の隣接地を所有されており、その土地をお寺に売り渡して、ご参拝の方の駐車場に使う事を考えたとします。
 お寺は、まず、①宗教法人としてこの土地の購入を決定し、次に、②ご住職との間で売買契約を結ぶ必要があります。具体的にはまず①のために、責任役員会を開催します。さて、そのお寺の規則に特に定めがなければ、責任役員会の事務は責任役員の過半数で決し、その議決権は各々平等です。しかしこの場合、たとえ責任役員であってもご住職は、議決に参加する事はできません。仮に土地の買い取り金額等の売買条件が、お寺に不利でご住職に有利な内容である場合を考えると、ご住職がお寺の責任役員会で買い取り賛成の議決をできる事が不合理なのは、おわかり頂けるものと思います。宗教法人法は、このような、特定の責任役員と特別の利害関係がある事柄について、その責任役員の議決権を認めていません。このような場合に備えて、各宗教法人の規則には、「仮責任役員」を選定する等の、議決の客観性を確保するための方策が定められている事と思います。また②についても、宗教法人がなす契約行為で宗教法人を代表するのは、一般的には代表役員ですが、この場合は、仮代表役員を選ぶ必要があります。
 このような、利益相反行為についての規定は、宗教法人法21条、並びに各法人の規則に定められているはずですので、ご確認なさって下さい。上記の土地の売買は利益相反契約の典型的な一例ですが、私が住職を務める明王寺において最近経験した事例では、住職がお寺の一室をお寺から借りて行政書士事務所を開設するに際し、お寺から使用貸借の許可を得る場合がありました。また最近ネット上で、お寺で働く者に退職金を支給できるように、退職金規定を定めるための責任役員会の雛形らしきものを見る機会がありましたが、この雛形は代表役員(つまり、その規定に従い退職金を受け取る予定の人)が議決に参加する体裁となっていました。
 利益相反行為についての規定に則っていない行為は、原則として無効です。冒頭の例であれば、檀信徒さんから損害賠償請求を受ける可能性もあります。くれぐれもご注意下さい。

 さて前回、きちんと公告をしたことを証する「公告証明書」に、利害関係者に証人として署名捺印していただく事について、「いつも総代会や責任役員会などで議事録に署名してもらっているからと言って、これら総代さん、責任役員さんらにお願いする事はできないと考えるべき」と記しました。
 もうおわかりですよね。公告すべき内容を決したのは、責任役員会ですよね。その責任役員会のメンバーが公告をきちんと為した事の証明をすると、利益相反の傾向を帯びるのが問題となります。このため、多くの行政機関で、公告証明書の署名捺印は責任役員以外、と求めています。

【ご参考】宗教法人法第二十一条
 代表役員は、宗教法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。この場合においては、規則で定めるところにより、仮代表役員を選ばなければならない。
2 責任役員は、その責任役員と特別の利害関係がある事項については、議決権を有しない。この場合において、規則に別段の定がなければ、議決権を有する責任役員の員数が責任役員の定数の過半数に満たないこととなつたときは、規則で定めるところにより、その過半数に達するまでの員数以上の仮責任役員を選ばなければならない。
3 仮代表役員は、第一項に規定する事項について当該代表役員に代つてその職務を行い、仮責任役員は、前項に規定する事項について、規則で定めるところにより、当該責任役員に代つてその職務を行う。

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