墓地の経営許可申請と周辺住民
先日(令和3年5月20日)、ビル型納骨堂の建設について、生活環境を害しており建設許可は違法などとして、周辺住民が、許可した大阪市に対して提起した行政訴訟についての地裁判決が出ました。判決は、言わば「門前払い」。市が行った納骨堂の建設許可に際し、周辺住民には、個別的な保護すべき利益はないとした上で、住民側に取り消しを求める訴訟を起こす適格はないとしました。
墓地に限らず、いわゆる嫌忌施設の建設許可についての行政訴訟においては、周辺住民の原告としての適格を認めない判決が、最高裁を含めて多くみられます。
しかし、新たな墓地を経営をしようとする、または変更(規模の拡大など)をしようとする宗教法人等の経営者は、決して「周辺住民が許可の取消を求めて提訴しても、門前払いされる」と思い込んではいけません。
注意すべきは、墓地・納骨堂の許可の違法性を問う裁判の中でも、事前に標識の設置や隣接住民への説明会の開催する義務や、隣地住民が意見申出をする事が出来る旨を定めた条例がある東京都において、周辺住民の原告適格を認める判決が出た事例がある(東京地裁、平成21(行ウ)46 墓地経営許可処分取消等請求事件)事など、個別の案件に特有の事情があることです。この裁判の判決では、上述のような隣接住民等に対して墓地経営許可に係る手続への関与を認めた規定があるという事情が考慮されました(ただし、経営許可処分の取消しの求めは却下された)。
更に多くの自治体で、経営許可の申請に際し、隣地土地所有者の同意書などの提出を義務付けている点にも注意が必要です。自治体により
・隣接地のみならず、例えば周辺100メートル以内であったり
・土地や建物の所有者のみならず、使用者(賃借人など)も含まれていたり
・同意が得られない人がいる場合の扱いについての明示の規定がある場合、ない場合
など、その扱いは一様ではありません。構想の段階から、申請先の保健所等への相談を通じて、これらの点を詳らかにする必要があります。
同意書が必要である事がわかった時点で、既に墓地の計画が周辺住民に察知され心情的な反発を招いていると、同意を得る事は困難を極めます。計画の最初期の段階で、保健所等との事前協議により「同意」の要件を明らかにし、その要件を満たすための計画を策定して、申請者から直接に周辺住民への周知して対話を開始する事が肝要です。
更には心情面の問題以外にも注意すべき課題があります。例えば、隣接地の登記上の所有者が既に亡くなっている場合は、相続人の特定作業が必要になります。また、同意書が必要となる範囲に、区分所有権の設定されたマンションなどがある場合は、その所有者の特定だけでも多くの労力、時間、費用が必要です。実際に住んでいる人がその部屋の所有者とは限らないからです。また、その全員の同意を得る事ができる可能性はマンションの規模が大きくなるほど、等比級数的に困難になります。これらの点も考慮して、計画を進める事が重要です。